インターネット陰謀論(7)
2014-08-31
その他
7. 日本型OSの開発
サイバースペースは、すでにかなり汚染されてしまっている。ハッカーやクラッカーが跳梁跋扈し、その発信元は個人だけでなく、大手IT企業や各国の政府機関である可能性が極めて高い。IT革命が起こったのは、金融資本主義や格差社会が拡大していった時期とちょうど重なる。貧困化はグローバル化の関数であり、グローバル化はIT化と金融資本主義化の関数であることは、もはや疑いの余地がない。そして、この流れをこのまま放置しておけば、状況はさらに悪化し、深刻な社会問題となっていくことだろう。これを止めるには、グローバリズムとは異なった価値観や倫理観をもって対峙させていく他ない。
しかし、翻って個人の問題に立ち戻れば、今ひとつ実感が湧いてこない面もある。サイバー攻撃がターゲットとしているのは、主に政府や企業であり、個人のパソコンであれば、たとえマルウェアによって監視されたとしても、ほとんどの場合大した機密情報があるわけではない。また、OSの独占によってインターネットの世界が一元化されたと言っても、それで便利であればいい、といった見方もある。しかし、一般ユーザーにとっても、見過ごすことのできない事柄が一つある。それは、パソコンの寿命である。
現在のパソコンの平均寿命は3~4年である。これは、家電に比べて著しく短いことに気づく。パソコンは家電製品に比べ機械的損傷や摩耗が少ないのだから、本来ならもっと長持ちしていいはずである。これは機械の寿命からではなく、ハードディスクの中のプログラムが常に書き換えられてきた結果であり、要するにソフトのレベルの問題なのだ。この書き換えの主要な原因が、アップデートである。また、つい最近のウィンドウズXPのサービス終了のように、長期間の利用を許さない仕組みにもなっている。要するに、今のパソコンは、短期間での買い換えを強要されるシステムになっているのだ。高額商品なだけに、これは由々しき問題であろう。
そして、これは本来の日本人の物づくりの価値観に著しく反しているのではないか。しかし、パソコンの短命化は、日本のメーカーにとっても利益になるため、必要な努力を怠ってきたとしか思えない。日本の製造業はアメリカ式拝金主義に屈してきたのだと思われるが、もう一度「物づくりの精神」に立ち帰って、新陳代謝か日進月歩か知らぬがそんなものには惑わされることなく、丈夫で長持ちする製品を目指してほしい。そのためには何をすべきかについて、次に考えてみたい。
まずは、OSの独自開発が必要であろう。これは、ウィンドウズに代わるべきデファクトスタンダードを目指すのではなく、サイバースペースを多元化するための方便にすぎない。パソコン黎明期のOS群雄割拠の時代に戻り、各社が競争し切磋琢磨することによって、ウィンドウズの一元支配に楔を打ち込んでほしい。それによって、ワープロや表計算ソフトにも、日本製品が参入し、アプリケーションももっと多様化するであろう。
筆者などの場合、インターネット環境とワープロと表計算さえあれば十分なので、とりあえず三つのスペックさえ揃っていれば、一定のユーザーを取り込むことができるのではないか。最近ネットを席巻していると言われているネトヨの諸君も、純国産ということであれば、支持してくれるかもしれない。
そして、日本版OSは、次のような特徴をもつようにしてもらいたい。
まず、「軽量、かつシンプル」を基調とし、デフォルト(初期設定)でいろんなアプリケーションを詰め込まず、最小限のものだけにとどめておくこと。そしてOSを、①ベーシック、②スターンダード、③プロフェッショナルと、三つのタイプに分ける。
① ベーシックタイプ
スタンドアローンを前提として、インターネット環境を持たないOS。そもそもビジネスで、通常の事務や経理業務に、インターネットは不要である。
② スターンダードタイプ
インターネット環境は持つが、アプリケーションソフトはワープロ、表計算に加え、利用頻度の高いものだけを使うためのOS。ビジネスユースには、ほとんど対応できるようにする。
③ プロフェッショナルタイプ
これは現在のと同様の機能を持つOSだが、汎用性の高いものはむしろ例外的に位置付ける。ただし、スターンダードタイプ同様、余計なアプリケーションは一切組み込まない。
さらにこの三つのOSに共通する特徴として、頻繁にアップデートやアップグレードは行わないこととする。ゆえに、これらのOSの前提として、サイバー空間となるべくなら接触を持たないようにするということがある。その一番手っとり早いのがスタンドアローンであろう。用途別に何台もパソコンを所有している場合、何もすべてをインターネットに接続させる必要はない。
もし筆者が経営者なら、個人情報保護の観点からも、派遣社員や契約社員のパソコンはスタンドアローンとするだろう。そうすれば、機密情報にアクセスされる心配もなく、また仕事中インターネットを遊びに使われたりすることもなくなる。また余計なプログラムを積まなければ、その分低価格になるだろうし、ウィルス感染やアップデートがない分機械が長持ちする。最近は、誰でもモバイルを持っているので、もし業務上インターネットやメールがどうしても必要なら、個人の携帯やスマホを使ってもらって、その分手当を支給すればいいのである。
スターンダードタイプ及びプロフェッショナルタイプは、インターネットと接続可能にするが、その際PCに、次のような改良を加えてもらいたい。すなわち、ハードディスクを二つに分割し、仮にインターネットに接続している部分をA区分とし、そうでない部分をB区分とする。そして、一つの区分から他の区分には、外部操作なしには絶対に行かれないような設計にする。オンラインで外部とつながっているA区分にはブラウザーとメーラーとウィルス対策ソフトだけを入れておき、外部から切断されているB区分にのみ、他のアプリケーションやファイルを保存しておく。要するに、パソコン2台を使って、1台はオンライン専用とし、もう1台はスタンドアローンとし、ダウンロードしたデータのうち必要なものだけをUSBメモリーで移すといった環境を、1台のパソコンの中に盛り込むのだ。そしてウィルス対策ソフトは、必要な時以外はオフの状態にしておく。ウィルス対策ソフトはメモリーを食うので、ずっとオフの状態にしておけば、その分動作環境もずっと良くなるはずである。また、A区分は、起動時か終了時に、毎回初期化する。
これは、次のように譬えることができる。応接間と倉庫の二部屋の間取りの家で、応接間には椅子やテーブル等のみを置き、家具は最小限度とし、貴重品は一切置かないようにする。そして、倉庫には窓がなく、しかも、応接間との間の扉には内鍵がかかっているので、たとえ応接室に泥棒が侵入したとしても倉庫には入れない。しかも、応接室は毎日バルサンを焚いて害虫を駆除するので、虫一匹いなくなる。
このような方法を取ることによって、重いウィルス対策ソフトを常時立ち上げておかなくても、ウィルスの被害から免れることができるのではないか。同種の技術で勝負しようとするから、いたちごっこになってしまうのであって、途中に異なった手法を取り混ぜることによって、不毛ないたちごっこに終止符を打つことができるのではないか。いくら強力なウィルスでも、同じ部屋の照明をつけることはできないであろう。