暴力団排除条例について
2011-11-01
中小企業
東京都で暴力団排除条例が施行された。暴力団組織の根絶を心から願う者として、私は、この条例に基本的には賛成である。しかしながら、地域生活者という一面もある暴力団関係者との交際を禁じることに対して、抵抗や不安感を覚える人も少なくないであろう。反社会的勢力の拡大を抑制することは大いに結構だが、そのために、一般市民が矢面に立たされることになってはかなわないからだ。本当に、これしか方法がなかったのであろうか?
ちなみに私は、ハローワークの紹介で、ブラック系の企業に三回も就職させられる羽目になった経験を持つ。その一つは正真正銘の企業舎弟であり、その後、会社の代表が脱税容疑で逮捕され、この事件は新聞の一面にも取り上げられた。先日私は、この事件の証人として、公判に出頭してきた。
この会社を仮にA社としよう。私は、あることが原因でA社を1カ月半で解雇されることになる。しかし、その理由が理不尽で、かつ解雇予告手当も支払われなかったため、労働基準監督署に相談に行った。そして、対応に出た者にA社の名刺を差し出すと、顔色がサッと変わり、「こういうところはちょっと……」と口ごもり、A社の名前を明らかに知っている様子であった。そして、「こういうところは、行政指導では無理かと思われますので、ご自身で裁判して頂くより仕方ありません」と一言だけ言うと、相談内容に耳を傾けられることなく門前払いされたのであった。そして、驚いたことに、その後も、ハローワークの求人票には、A社の名前が掲載され続けたのである。
冒頭に触れたように、私はA社の他にも2社のブラック系企業をハローワークで紹介されている。これは、不動産という業種の問題もあろうが、恐らく似たような経験をした方は、他にもたくさんいるのではないか。
今回の条例の目的に、経済活動を抑制することにより暴力団の資金の流れを絶つことがあるように見受けられる。しかしそれ以外にも、重要なことがある。それは、人材の流れを絶つことである。企業舎弟は、堅気の人間の協力抜きに、社会的プレゼンスを増すことはできない。経営には事務方が必要だし、人相の悪い連中ばかりでは人々から敬遠されてしまい、ビジネスにも支障を来すであろう。つまり、安易に暴力団に人材を供給しているハローワークは、彼らの勢力拡大の片棒を担いでいるということになる。
さらに言えば、元々アウトロー系の傾向を持っている者が、このような企業に入った場合、その「才能」を開花させてしまうことだって少なくないであろう。人材の流れを止めることは、反社会的勢力の拡大を抑制する上で必要不可欠な課題なのである。
そこで一つ提案がある。暴力団排除を目的として、労働基準監督署の機能と権限を強化し、その摘発、刑事告発に本腰を入れて取り組んでほしい。アル・カポネ以来、脱税による暴力団構成員の逮捕は多いが、労働事件による逮捕は寡聞にして聞かない。彼らはあらゆる領域で違法を重ねているため、監視さえ厳格にやれば、労働法で尻尾を出す可能性も出てくるに違いない。
また、逮捕には至らなくても、労働基準監督署やハローワークが要となって、暴力団関連の情報収集に努めることは有益であり、また、それほど困難なことでもないだろう。私は、A社を1カ月半で辞めたと述べたが、これは同社では短期どころか異例の長さであり、一緒に入った者のうち、一人は入社翌日から来なかったし、もう一人も半月で辞めている。つまり、堅気の者が、ブラック系企業に入った場合、大抵はすぐに辞めてしまうのである。ということは、短期間とは言え、これらの企業と接触を持った人の数は意外に多いはずであり、適切な窓口さえ設ければ、退職者からの情報提供が数多く得られるに違いないのだ。
このように、一般市民を矢面に立たせる前に、行政機関がまずやらなければならないことがあるはずである。ちなみに、A社の同期の一人は、大手証券会社を辞めてきた者である。また、別のブラック系の企業には、長野県から妻子を連れて上京してきた者がいたが、その実態を知るや一週間で辞めてしまった。ハローワークの求人に安易にブラック系企業を掲載するというのは、かくも罪深いことなのである。労働基準監督署やハローワークは、罪滅ぼしのためにも、暴力団対策に全力を尽くすべきである。