インテリジェンス武器なき戦い(佐藤優・手嶋龍一 幻冬舎新書)
2010-09-22
その他
本書の主題は、インテリジェンス・オフィサーである。聞きなれない言葉だが、要するにスパイのことである。対談者の佐藤優氏と手嶋龍一氏は、外務省職員、NHK特派員と異なった経歴の持ち主だが、たまさかこのインテリジェンス・オフィサーと近い世界をこれまで歩んできた。日本は忍者の伝統ある国だが、諜報機関は陸軍中野学校を最後に途絶えたかに見えた。しかしなかなかどうして、日本の情報収集力は現在でもそれほど捨てたものではないらしい。諜報機関に莫大な予算をつぎ込むアメリカやイギリスの後塵を拝するのは仕方ないとしても、時には、CIAを出し抜くような成果を上げることもあるらしい。国力と潜在的なインテリジェンスは比例するというのが、佐藤氏の持論である。しかし、日本の場合、その情報が、外務省、警察、防衛省、公安調査庁、内閣情報調査室、財務省、マスコミ、商社等に分散してしまい、それらを集約させる機関がないのだ。国益のためには、諜報機関とインテリジェンス・オフィサー養成機関を一日も早く創設すべきだというのが、二人の一致した見解である。
諜報活動によって入手した情報と言えども玉石混交が常であり、そのために、インテリジェンス・オフィサーには真贋を見分けるだけの分析能力が欠かせない。ガセ情報によって政策が決定されると、イラクにおける大量破壊兵器のように、国の行方を左右する大きな失態にもなりかねない。ゆえに、インテリジェンス・オフィサーは高度の知的訓練と幅広い学識が不可欠であり、モサドのインテリジェンス・オフィサーなどは、退職後すぐに大学教授になれるくらいの知性を有しているという。国際的な情報戦を勝ちぬくためには、優秀な人材を育てることがなにより大切なのだそうだ。
それを裏付けるかのように、二人の知的ボリュームには本当に驚かされる。話題は、経済、政治、歴史、文化と、広範な領域に及ぶが、それらを縦横無尽に駆け抜け、聞いたこともないような情報が泉のように溢れ出し、飛びかっていた。対談がリラックスムードの中で行われていたせいか、話題は下ネタにまで及び、「ロシア人夫婦のセックス回数の標準は週に16回(朝晩と休日には昼も)」という話まで飛び出した。以前、東京MXの「ゴールデンアワー」という番組で、日本人と結婚したロシア人女性が、日本人男性のセックスレスについて興奮した口調で非難していたことがあった。座興で飛び出した下ネタにまできちんと裏が取れていたというわけだ。
恐るべし、インテリジェンス・オフィサー。