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2014-10-25
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(1)最悪の二者択一
 筆者自身が経験した、みずほ銀行(及びユーシーカード㈱)とソフトバンクとの紛争事例について紹介させて頂いた。この二つの事例は一見対照的ではあるが、根っこにおいてはつながっている。
まず紛争の解決方法において、両者は対照的である。ユーシーカード㈱の場合、郵便局留めという受領方法を示し、これによって筆者はとりあえず要求を通すことができた。一方、ソフトバンクの場合、合理的な説明が何もなされぬまま、要求は完全に拒絶された。要求と言っても故人の未払い金の清算だったので、支払いをせずに済んだという恰好になる。
結果からすれば、前者は適切な対応だったと見る向きもあるかもしれないが、必ずしもそうではない。なぜなら、特例的な形での決着ということは、もししつこく要求していなければ、たとえ重大事故につながったとしても拒否されたからである。現に、みずほ銀行の担当者が二度に渡って今回の事情を伝えたにもかかわらず、ユーシーカード㈱側は、「それでも、配達方法は変えられない」と回答している。これは、ある意味恐ろしいことでもある。社内規約さえ守っていれば、たとえ怪我人が出ようが一切関知しない、と言っているに等しいからである。
無視と特別扱いは一見異なった対応のように見えるが、実は、一連のプロセスのステップと言えそうである。つまり、最初の段階ではとりあえず門前払いにする。そして次に、それでも強硬に出てくる相手に対しては、特例措置として要求をのむ形にする。しかしこれでは、合理性や公正さのかけらもない。そして、このような企業の態度は、クレーマーをかえって助長させることになるのだ。なぜなら、大声を上げた時にだけ耳を傾けると言うことは、クレームが合理的な行動と見なされ、定着していくことになるからだ。しかし、これは、企業と消費者の両方にとっての、モラルの低下に他ならない。
故に、コンプライアンスに伴った、企業のこういった行動は改められなければならない。だが、一体どういった形にすれば良いのだろうか。
ソフトバンクの規約の場合、大企業にしてはずいぶん杜撰な内容であった。故に、このような不合理な文言は、すみやかに改訂されるべきだろう。しかし、みずほ銀行(及びユーシーカード㈱)のケースでは、このような事態への対処方法を、あらかじめ規約に書き加えておけばいいのだろうか。筆者はそうは思わない。このような瑣末なことまで書き込んでいけば規約は膨大なものとなり、極めて使い勝手の悪いものとなってしまう。また、解決方法も、今回はたまたま郵便局留めという形が選択されたが、別に目的さえ達成されれば何でもいいのである。条件によって方法も異なってくるため、いちいち細かく規定されるとかえって使いづらい。些細な事項まで明文化するよりも、店員なり責任者が、臨機応変に対応できるようにすることの方が望ましいのだ。過剰なコンプライアンスによって、かえって身動きが取れなくなり、その結果、無視か特例かという、最悪の二者択一が横行するのである。
コンプライアンスの瑕疵は常に見直されるべきであって、金科玉条の如く墨守するものではない。これは、今回のソフトバンクの例を見れば明らかであろう。このようにお粗末な文言が存在すると言うことは、これに類する条項が他にもあるということを意味する。しかし、現場の者としては、瑕疵の存在を認めるわけには行かないので、不合理な対応をせざるを得ないのだ。これは、コンプライアンスによくありがちな問題と言えよう。
そして、コンプライアンスによって紛争をすべて解決するという、無謀な試みを早く放棄することである。この世におけるありとあらゆる紛争を分類し書記化しようなどということは、所詮無茶な話である。細かい要素を含めれば、無数の組み合わせが生じ、それによって紛争の性格や内容もみな異なって来る。そして、その細かいことが当事者にとっては結構重大だったりするのだ。一見類似した事案であっても全く異なった受け止め方をされることもしばしばある。ゆえに、無理矢理どれかのカテゴリーに当てはめようとはせず、白紙の状態で話し合うべきなのである。しかし、悪徳業者やクレーマーの餌食にされる恐れもあるので、紛糾した場合には、行政に関与してもらう仕組みも用意する。これについては後述するが、それは、裁判に比べ敷居が低く、誰にでも簡単に利用できるものでなければならない。
コンプライアンスは企業の規約を法律とリンクさせていくものなので、その背景には、法律優先の考え方が存在する。しかし、そもそも民法とは、私人間の紛争解決を目的としたもので、当事者同士の話し合いによってけりがつくのなら(つまり、紛争に至らなければ)、何も法律に頼ることはないのである。つまり、当事者同士が納得さえすれば、法律とは全く異なったやり方で解決してもかまわないのだ。この辺が刑法との大きな違いである。このような示談による解決を原則とするならば、コンプライアンス蔓延の風潮は、これに反することにならないのか。そして、コンプライアンスが浸透していくにつれ、話し合いの道は閉ざされ、示談は片隅へと追いやられていくのである。筆者は、この民法本来の趣旨に立ち戻り、示談による解決優先の道を模索したい。
しかし、実際に示談を活用していくためには、様々な面で壁に突き当たる。例えば、企業相手に交渉する場合、弁護士や法務部の人間がやってきて、法律専門家と互角に渡りあわなければならない。そこには、情報量や交渉術における圧倒的な差があり、このような状況では、対等な交渉などとても不可能であろう。これが、示談をしり込みさせる理由の一つである。示談を真に社会に根付かせていくためには、情報や交渉術における格差を是正し、弱い立場の者が不利にならぬようにするための仕組みが必要なのである。
一方、示談と裁判の中間に位置するような制度もあり、最近これらへの関心も高まってきている。ここで、裁判に代わるべき制度についてざっと眺めておきたい。

(2)裁判のオールタナティブ
裁判ともなれば、お金も時間もかかるため、利用をためらう人が多い。そのため昨今では、裁判に代わるべく(オールタナティブ)新たな制度への関心が高まりつつある。その例として、ADR、民事調停、消費者センター・国民生活センターを取り上げ、簡単に紹介しておきたい。

(ADR)
裁判のオールタナティブな方法として、ADR(Alternative Dispute Resolution)があり、平成16年には、ADR法(裁判外紛争解決手続利用促進法)が制定されている。ADRでは、裁判のように白黒はっきりさせるのではなく、話し合いによる紛争当事者同士の納得、すなわち心理的和解を目指している。そのため進行役として、カウンセリングを学んだファシリテーターが関与する場合もある。
筆者もADRの講習会に参加したことがあるが、すべて心理的アプローチによって和解が進められるのかと言えばそうではなく、法的問題についても検討される。その辺が曖昧でわかりにくく、調停者の技法確立を妨げているようにも見える。また、その前提には、性善説と、解決への前向きな姿勢があるように思われる。しかし裏を返せば、もしこのような条件が揃っていれば、必ずしもADRに頼らなくても解決できるのではないかという気がする。ADRを利用すればそれなりに料金も発生するし、短期間に解決できるという保証もない。建設工事紛争のように、調停人の中に建築専門家がいる場合は、裁判以上に有効な手立てとなりうるかもしれない。しかし、カウンセラーや心理学者がファシリテーターになったとしても、心理的和解に到達することが可能かと言えば、疑問と言わざるを得ない。適する案件もあるだろうが、そうでない案件もある。まだ新しい法律なので、評価するには時期尚早かもしれないが、筆者はADRは日本ではあまり普及しないと考えている。

(民事調停)
民事調停も裁判以外の方法の一つであり、広義ではこれもADRに含めるという見方もある。民事調停の歴史は古く、扱う案件も法的な問題に限られており、その役割もすでに定まった感がある。費用も安く、和解内容には執行力が付与されるので、便利で有効な法的手立てとは思うが、やはり裁判の延長といった印象が拭えない。実際今回取り上げたケースに関しても、民事調停への申し立ては困難であろう。

(消費者センター・国民生活センター)
これら以外にも、自治体に設置される消費者センターや消費者庁が所管する国民生活センターがある。敷居が低く、誰にでも気軽にアクセスできるという点が、消費者センターや国民生活センターの最大のメリットであろう。多くの場合電話だけで済み、利用料金もかからない。国民生活センターではADRも行われているが、これには、先ほどと同じような問題が生じるであろう。
しかし、消費者センターや国民生活センターには、デメリットも存在する。まず取り扱う対象が、クリーリングオフ等消費者トラブルに限られている点だ。また、これらのセンターには法的権限がないので、悪徳業者に対してはほとんど無力である。反社会的勢力ほどこういった情報に耳が早いので、職員に理不尽な恫喝をかけてくることがある。しかし、このような場合に何の対抗手段も持たないのが実態であり、これでは職員が気の毒である。実際筆者は、こういったケースを目の当たりにしたことがある。筆者はかねがね思っているのだが、消費者センターや国民生活センターにもっと強力な法的権限を与え、上位の組織には司法警察職員を配置し、もし命令に従わなかったり、違法行為が疑われる場合には、臨検や刑事告発等ができるようにすべきである。強い権限を行使していれば、悪徳業者からも舐められなくなるはずだ。

ADR、民事調停、消費者センター・国民生活センターについて簡単に紹介したが、これらが取扱う案件は主に法律問題であり、そのため裁判制度の補完的な役割を担ってきたとも言える。ADRについては少し微妙だが、現実にはそのような位置づけになっているように思われる。
法律とかかわる問題ならすべて訴訟が可能かと言えば必ずしもそうではなく、法律的な案件でも、訴訟にできない場合が少なくない。例えば、今回紹介した二つの事例なども、裁判には馴染まないケースである。
例えば、ユーシーカード㈱の場合、いまだ損害は発生していないので、損害賠償を請求することは不可能である。また、違法または不法行為の場合や行う恐れがある場合には、差止請求をすることができるが、今回のケースではとても無理であろう。また、ソフトバンクのケースでは、そもそも損害自体が存在していないので、たとえ訴訟を起こしたとしても原告不適格になってしまう。
しかし、前者は重大事故につながる恐れがあるし、後者においても、巨大企業の規約に瑕疵があるということは、けして見逃してはならない問題だと思う。また、これを合理的に改訂すれば、他の利用者にとっても利益につながるはずである。門前払いやクレーマー扱いのような一時しのぎのやり方では、けして根本的な解決にはならない。ゆえに、裁判不能の案件や道徳的問題までを含めた、広範な紛争を取り扱えるような仕組みが必要なのである。

(3)示談サポートセンター
この具体案として、筆者は「示談サポートセンター」(仮称)の創設を提言したい。各地域に示談サポートセンターを設置し、示談が公正に行われるようにサポートするのだ。
手続はなるべく簡素とし、1回ないし2回の話し合いが行われた後、3回目には終結するようにする。示談の趣旨と矛盾するかもしれないが、利用者にとってはより早い決着こそが最大のメリットだからである。
具体的には、両当事者と助言者の三者によって話し合いが行われ、話し合いの場では、助言者は互いの言い分に耳を傾ける役に徹する。そして、1~2回の話し合いが行われた後、なるべく日を置かず助言者による判断が示されることとなる。この判断は、形の上ではあくまで助言であり、また、裁判ではないので法的拘束力も持たない。ただ、曖昧なものではなく、白黒はっきりした結論が示されるべきであって、互いの納得がゆくまで延々と続けるようなことがあってはならない。争いがある以上、双方が得心することなどありえないし、たとえあったとしても、早期に解決できなければ実用性の乏しいものとなってしまう。
そして、助言が確定しなかったり、双方が合意に至らなかった場合には、不調という形もありうる。もし両者の間で合意が得られたならば、和解書に署名し、3通のうち1通は示談サポートセンターで保管する。

この助言においては、法律、道徳、常識を含めた総合的判断が必要である。村の長老による手打ちと似ていなくもないが、単なる直感的判断ではなく、法的問題と道徳的ないし常識的問題をきちんと切り分け、前者では法的判断によって、後者では常識及び道徳的判断に基づいて結論が出されるべきであろう。今回の事例で言えば、ユーシーカード㈱の場合、法律というよりは道徳ないし常識的判断が重視されるべきだろう。
示談サポートセンターによる助言は法的判断ではないので、一回性のもので、助言者による主観が混じったものとなってもかまわない。また、助言者によって異なった結論が出ても良しとするので、双方が望む場合は何度でも利用できるようにする。解決に至らない場合もあるかもしれないが、特に企業の場合、公正・中立な第三者によって下された結論に対して異を唱えるということは、世間の目もあり、なかなか難しいのではないか。力の強い者による不公正な和解を抑止することができれば、それだけでも意味のあることだと思う。要は、情報格差を是正し、示談の利用を促進することが狙いなのだ。
示談サポートセンターは、消費者センターや国民生活センターのように、常勤及び非常勤を含む行政職員によって行われるのが望ましい。しかし、それを行うだけの財政的余裕はないと思われるので、とりあえずは資格制度を設け、民間の有資格者に委託するのが妥当であろう。但し、どちらかの当事者が助言者のところに直接依頼すると、公正・中立を保てなくなるので、申込の窓口は行政機関に置くべきである。

(4)上位機関の役割
示談サポートセンターには上位の組織を置き、案件の内容によっては、そこで審査が行われるようにする。これは、ここで示談を継続させるという意味ではない。当事者同士の問題だけではなく、より一般的な切り口から検討を加えた方が良いと考えられる場合に、上位機関で吟味するのだ。例えば、行政指導の是非について検討する場合等である。あるいは、一方の当事者が極めて悪質で違法性の高い行為に手を染めている可能性がある場合にも、審査を依頼する。そこには、司法警察職員が配置され、必要に応じて臨検も行うようにする。
この上位機関には、社会的影響力の大きい事案に関しては、特に関与させるようにする。大企業のコンプライアンスに瑕疵があった場合、行政による助言、指導、勧告、公表などができるようにする。大企業の場合、利用者数からすれば、国民生活に多大な影響を及ぼすこともありうる。ゆえに、単に契約自由の原則から個々の当事者に任せておくのではなく、行政側も積極的に関与すべきであろう。民法には、信義則、権利の濫用、公序良俗など、約定に書かれてなくても違反行為が禁止される場合がある。これらの法原則は、現実にはあまり機能していないが、何か問題があった時に、これらの原則に基づいた行政指導が行われれば、紛争予防につながるのではないか。また、企業の社会的責任という点からも、コンプライアンスの中味は行政による審査を受けてしかるべきだと思う。
また、示談サポートセンターでは、示談の概略を上位機関に報告し、特に犯罪と関係のありそうな案件は、データ化して保存・集積しておくべきであろう。そして、同一の個人や企業が度重なって問題行動を起こしている場合には監視し、一定の要件で臨検を行ったり、刑事告発ができるようにする。
現在、被害届を出しても、警察が受付けてくれないことが多い。警察は多忙で、重大犯罪にばかり関心が向きがちで、小さな詐欺事件などは無視される場合が多い。こういった案件には、行政機関である程度証拠固めをした上で、警察を動かした方が効率的である。消費者センターや国民生活センターなどにも、そういった情報は日々集まっているはずだが、司法警察職員もいないので、悪質な案件に対しては有効な手立てを打つことができない。また、労働基準監督官は、司法警察職員の権限を持っているのだが、実際に、その権限が十分に活かされているとは言えない。法的に強い権限が与えられているのだから、宝の持ち腐れにせず、きちんと行使してほしいものだ。

(5)まとめ
以上、示談サポートセンターについて、ざっくりとしたイメージを述べさせてもらった。これはあくまで筆者の現時点でのアイデアなので、今後さらに深めてゆきたい。個人的な問題から大企業のコンプライアンス、果ては悪徳企業までと、少し大風呂敷を広げすぎた感もあるが、要するに示談を促進するシステムの構築が必要なのである。また、示談の中で問題が発覚した場合、審査や臨検を行うというのは、理屈の上ではちょっとひっかからないこともない。しかし、筆者は実用性を重視する立場なので、法律的辻褄は後付けでもかまわないと思っている。法律は自然科学と異なり、理論や体系性は二の次だと思う。
あるいは、示談サポートセンターに監視機能を持たせることには抵抗を覚える人もいるだろう。しかし、公務員の告発義務と考えれば、それほど無理な話でもなかろう。以前コラムで書いたが、筆者には、ハローワークの紹介によって反社会的勢力系のブラック企業に就職した経験がある。こういう企業の経営者は、あらゆる面で非常識な行動傾向があるので、様々な場所に痕跡を残すものである。もし、企業の問題行動を各行政機関でデータ化し、それを横断的に処理・分析していけば、犯罪の早期発見に役立つと思う。悪党どもは、得てして動物的本能を強く持っているものだ。この本能の最たるものは、動物番組を見ればわかるように、まず弱い者から狙うというものだ。つまり人間で言えば、高齢者や認知症者、知的障害者など、社会的弱者から餌食にされていくのである。被害者を増やさないためにも早期発見は不可欠であり、悪党どもを根絶やしにすることこそが、筆者の心からの願いなのだ。
もう一つ、肝心な点として、「反コンプライアンス」とでも言うべき筆者の立場がある。コンプライアンスが社会全体を覆い尽くし、網の目のようなルールによって人々をがんじがらめにしている。今こそ、杓子定規なルール支配の世界を押し戻し、人間の自由な判断や道徳律によって決定されていく世界を復活させるべきなのだ。モラルがなければアナーキーな混乱を招くだけだが、各人の精神の中心にモラルを据え、その上で交渉するといった形を主流とし、コンプライアンスは補助的役割にとどめておくべきである。
示談サポートセンターに類する制度が実現することによって、人々がコンプライアンスの呪縛から解き放たれる日が来ることを切に願う。



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