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「サイレント・プア」は「半沢直樹」に学ぶべし!

2014-06-08
その他
NHKドラマ「サイレント・プア」が終了した。このドラマは、福祉をテーマにした作品で、社会福祉協議会に所属するCSW(コミュニティーソーシャルワーカー)というあまり聞きなれない職種にスポットを当てたものである。CSWとは、制度のはざまで問題を抱えている様々な人々に対して支援を行う仕事である。また、ドラマのタイトルでもあるサイレント・プア(=声なき貧困)の例として、この作品では、引きこもり、高齢、ホームレス、若年性認知症、震災被害といった人々のことが取り上げられている。斬新な着眼点に興味を魅かれ、全回見させてもらった。
最終回は、中途半端な恋愛ドラマのようで、この結末に不満を覚えた方は少なくなかったであろう。区のエリート課長との恋愛のスタートを予感させる幕引きは、福祉ドラマにはあるまじき嫌らしさである。しかし、今回取り上げたいのは、この点についてではない。それは、一言で言えば、取材不足のためか明らかに事実と異なると思われる点が目立ったということである。これは、社会派ドラマと言われる本作品にとって、致命的な問題点とも言えよう。抽象的に言っても仕方がないので、具体的に指摘させていただこう。

第5話に、香川京子演じる一人暮らしの老婦人が、リフォーム詐欺にひっかかってしまうというエピソードがある。リフォーム会社の若い営業マンが婦人の家を再三訪れ、商談を持ちかける。それを知った主人公のCSWの同僚が、これは詐欺だから気をつけるようにと忠告するのだが、なかなか聞き入れてもらえない。そこで警察に通報し、詐欺事件を未然に防ぐことができる。CSWの同僚が、婦人に営業マンが逮捕されたことを告げると、彼女はその営業マンのことを恨んではいないのだと答える。
まず第一に指摘しておきたいのは、まだ詐欺の実行もしてもいないのに、逮捕などされるわけがないということである。ドラマでは、この老女に対する行為によって逮捕されたと解釈できるのだが、もし別の詐欺事件によるものだとしても、逮捕されることはまずあり得ない。そもそもリフォーム詐欺で刑事事件化された試しがないのだ。最も有名なのは、埼玉県富士見市で起こった事件だが、このケースでは、認知症の姉妹が数千万円の不要な工事をさせられたり、物品を購入させられたりして、挙句の果てに自宅まで競売にかけられそうになった。ここまで悪質な行為をされながらも、この姉妹に群がり強奪して行った者たちは、誰一人逮捕されることはなかった。それどころか、民事的な損害賠償すらできなかったのである。これが、司法の実態なのだ。詐欺事件は、一般に立証が困難であると言われている。老人から財産を奪い取った者たちから、「おばあちゃんが認知症だとは知りませんでした」と言われたら、恐らく罪に問うことはできない。この富士見市のケースでは、社会福祉協議会が中心になって、成年後見人をつけ、これ以上被害が拡大するのを食い止めたが、それくらいのことしかできないというのが現実なのだ。しかし、このドラマの老婦人は認知症ではないので、成年後見の活用もできない。婦人は、若い営業マンのことを恨んでいないと述懐するが、それは死んだ息子のことと重ねていたからだと思われる。ということは、この老婦人が再び詐欺事件に巻き込まれる危険性は依然として高いということになる。
BSドキュメンタリーで、フランスの高齢者詐欺グループについて取材した番組があった。このグループは、高齢者相手に嘘の投資話をもちかけ、老後の蓄えを奪い取ってしまうのだが、指示を出す幹部たちが転々と居場所を変えるので、警察も捜査に手間取っていた。首謀者がアフリカ系の黒人だったことも意外だった。このケースでは、警察は結局詐欺グループの全貌を解明し、幹部たちの逮捕にまで漕ぎつけるのだが、最後に、
「しかし、この男たちは、たった6年ほどで刑務所から出てくるのだ」
というテロップが流れて、番組は終了する。
このドキュメンタリーの対象は、高齢者をターゲットにした犯罪組織であり、また警察は証拠もつかんでいたので逮捕することができた。日本で言えば、振り込め詐欺の犯罪グループに相当するだろうか。しかし、実際にリフォーム業を営んでいる者が、通常の業務の中で悪事に手を染めたくらいで、警察は動いてくれないのである。そして、ドキュメンタリーで制作者が嘆いているように、どこの国でも詐欺事件に対する刑罰は、現実の被害に比べてあまりにも軽いのである。だからこそ、高齢者を狙った詐欺犯罪は後を絶たないのだ。したがって、CSWを含む福祉関係者は、このような現実を踏まえた上でこの問題に対処しなければならない。そして、すぐに警察が動いてくれると言った誤った認識は、百害あって一利なしなのである。

もう一つ例を挙げよう。第6話は、フィリピン人の母親と日本人男性との間に生まれた男の子の親子に対して、主人公が手を差し伸べるという話である。最初、母親に協力を拒まれ、何度行っても追い返されるが、やがてそれが、入国管理局に通報されることを恐れているからだということがわかる。しかしそれでも、粘り強く訪問を繰り返し、ついに母親の心を開かせる。そして主人公は、母親が拒絶した理由を知り、入管に行って相談したらどうかと、助言する。しかしその矢先に、彼女が勤めていた会社が外国人の違法雇用で摘発を受け、それを知った母親は、捕まることを恐れて子どもと共に行方を眩ませてしまう。
まず一言言いたいのは、この母親が取った行動は、フィリピンに強制送還されないためには合理的であり、全く正しいということである。入国管理局は、福祉とは対極に位置する、冷徹で血も涙もない権力機関である。したがって、なんの準備もなしのこのこ出かけて行ったらかえって藪蛇で、母親が恐れていた通り強制送還されてしまう可能性は十分にある。したがって、主人公のアドバイスは専門家として浅はかであり、役割を果たしているとは言えない。(強制送還させることを目的としていれば別だが)
在留資格の要件は明文化されているので、事前に、弁護士や行政書士に相談すれば、本件で強制送還されるかどうか事前にわかる。このようなリサーチ抜きに、このケースは一歩も先に進められないのである。しかし、このドラマの中では、息子が日本国籍を取得しているのかと言ったことさえ明らかにされていない。その代わりに、主人公は、日本に在住するフィリピン人のコミュニティを紹介する。しかし、日本人と結婚し、在留資格を得ている者と、この母子とでは全く立場が異なるので、これは気休めにしかならない。
そしてもし仮に、日本に滞在できないことがわかった場合、どうするのか--これこそが、外国人と関わる福祉関係者が一番悩むところではないだろうか。CSWの立場を離れて、個人的に支援を続けるのか、あるいは、国家の方針に沿って帰国を薦めるのか、立場をはっきりさせなければならない。このドラマのように、ただ失踪したことに嘆き悲しむというのでは、問題の本質から目を背けているとしか言いようがない。CSWとして、弱者によりそうことと、国の政策との間に矛盾がある場面に遭遇することはしばしばあるはずである。せっかくそれを掘り下げられる恰好の題材であったにもかかわらず、曖昧な形でぼかしてしまったことは実に残念である。

「サイレント・プア」は、社会派ドラマである。フィクションである以上誇張はつきものだが、基本的な事実に関してはやはり誤りがあってはならない。今まで見てきたように、この作品は、警察や入国管理局の機能に関して、誤解を与えてしまっているように思える。この作品は、社会福祉協議会の協力も得ているということだが、もう少し正確な描き方をしてほしかったと思う。
ところで、最近の社会派ドラマで大ヒットしたものに「半沢直樹」がある。このドラマはもはや説明の必要もないくらい有名な作品だが、ヒットの背景には、基本的事実における正確さがあったように思われる。また、それゆえにこそ極端な誇張が可能だったのであろう。原作者の池井戸潤は銀行の出身者であり、銀行の裏事情にも精通している。そして、リアリズムの土台の上に成立したドラマであったからこそ、ハチャメチャな展開も可能だったのであろう。同じ銀行出身の作家、江上剛が、金融庁の検査官におねえ言葉を使う人間なんていないなど言っていたが、それこそ野暮な言いがかりに過ぎない。筆者もかつてサービサーに勤め、銀行が金融庁の検査に戦々恐々としていることを人づてに聞いたことがある。検査を受ける行員にとっては、金融庁の検査官が、魑魅魍魎かモンスターのような存在に見えたのではないか。黒崎検査官のああいったグロテスクで毒々しいいキャラクターは、恐らく当時行員たちが抱いていたイメージを誇張したものだろう。一見ありえないと思われる設定の裏には、実はリアリズムが存在していたのだ。「半沢直樹」は業界関係者も多く見ていたと言われるが、恐らく関係者にしか分かり得ないエピソードが他にもたくさんあったからであろう。

かつて、松本清張の作品を中心とした社会派推理小説ブームの時代があった。しかし、若者の関心がゲームやファンタジーへ向かっていくのに反比例して、社会派作品に対する関心は薄まっていくようであり、残念に思う。その中で、唯一気を吐いているのがNHKの土曜ドラマで、重厚な作品群にいつも堪能させてもらっている。(その中で、「鉄の骨」と「七つの会議」は池井戸潤原作)しかし、社会派作品には、関係者をも納得させるだけのリアリティが不可欠で、残念ながら、「サイレント・プア」にはこのようなリアリティがなかったように思われる。福祉をテーマに扱った重厚な作品に期待したい。



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