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榊原秀剛著「おひとりさまが死ぬまで自立して生きるための本」

2011-04-03
成年後見
      榊原秀剛著 「おひとりさまが死ぬまで自立して生きるための本」

 著者は、大阪で司法書士・社会福祉士事務所を構えている。司法書士と社会福祉士の両資格を兼ね備えている人は少ないと思われるが、著者の場合さらに精神保健福祉士の資格まで最近取得したとのことである。後述するように、成年後見の仕事をする上で司法書士の資格だけで十分なはずだから、さらに福祉系の資格まで取得したということは、この業務に対する並々ならぬ熱意の現れに他ならない。
 著者が成年後見の仕事を始めて十年になるそうだ。成年後見制度がスタートしたのが平成12年(2000)だから、文字通り成年後見の草分けであり、この業界における最ベテランということになる。本著では、今まで受任してきた60件に及ぶケースで出あった印象深い人々のことが綴られている。そして、本書のタイトルにもあるよう、成年後見制度を最も必要とする人々は、昨今急増しつつある身寄りのない単身高齢者であるというのが、本書の基本的なスタンスである。そして、その前提として、著者自身がこの単身高齢者予備軍であるということが、赤裸々に語られている。ちなみに、私もまた著者と同じ立場であることを付言しておく。
 私が、ここで紹介したのは、何も同病相哀れむ的な理由からではなく、本書に底流する成年後見制度そのものに対する見方に対して、深く共鳴したからである。私自身マイナーを自認しているため、これは極めて稀なことであり、私の周囲を見回してもこの見方を共有できる人を見出すことは不可能に近い。しかも、著者の場合、私などに比べて遥かに経験豊富であり、そのような人が私と同じ意見をもっているということは大いなる喜びであった。
この見方とは、具体的には次の点である。

 ① 後見人は、法律行為だけでなく事実行為にも積極的に関与すべきである。
 ② 医療行為の同意書にも緊急時にはサインすべきだし、施設入所契約等の保証人にもやむえない場合にはなるべきである。
 ③ 役人の冷たい態度に憤りを感じる。
 ④ 家庭裁判所は、福祉職より法律職を優遇している。

 ちなみに①と②に関しては経験がないとピンと来ないかもしれないが、きわめて少数派の意見である。私は全く賛成だが、白い目で見られそうなので、今まで同業者の前でこれを開陳したことはない。
 ③と④に関しては、社会的関心を惹く重要な問題かと思われるので、ここで私なりに少し解釈を加えてみたい。

 ③に関しては、成年後見の市町村申立をするに際し、役人の腰が重く四の五の言ってなかなか受け付けてもらえないケースが、本書では紹介されている。役所の同様の反応は、成年後見以外の様々な場面でも見られる。その理由として、福祉関連の相談窓口に福祉職で入った者でなく一般職で入った者(あるいは、福祉職で入っても福祉マインドの欠如した人間)が配置されるため、彼らの目線が相談者の方に注がれず、上司ないし出世の方にしか向いていないことが考えられる(相談者の申請を断れば、財政負担の軽減化に貢献したとして評価される)。その典型は、北九州市の職員が生活保護の申請を門前払いにし、餓死させてしまったケース(2006)であろう。また、家庭裁判所の対応を見ても、福祉的なマインドはあまり感じられない。
 このような傾向は、成年後見人の側にもしばしば見られ、私がかつて関係していたグループも、冷徹な事務屋の集団にしか見えなった。しかし、これはまだいい方で、中には、成年後見人が被後見人を騙し食い物にしようとする事例も見られる。例えばNHK番組で、2000万円の財産を持つ高齢者と財産管理契約を結んだ弁護士が、管理費として称して月々60万円要求し、2、3年で無産者にしてしまったケースを、宇都宮健児氏(日弁連会長)が紹介していた。消費者被害から守ってもらうために法律専門職に依頼したのに、その者に裏切られるというのは、後ろから斬りつけられるようなものであろう。
 一方、私は、以前サービサー(債権回収会社)に勤務していたので、判断力の低下したお年寄がハイエナが群がるが如く財産を奪われてしまうケースを実際に見聞してきた。このように認知症の高齢者から財産を奪うことは卑劣で道徳的に最も非難されるべき行為なので、刑法に特別の規定を設けて重罰化すべし(本音を言えば、極刑)ということを、以前このコラム(成年後見制度改革試案)に書いたことがある。

 また④に関して具体的に言及すると、次のようなことである。成年後見の申立の際、約8割が親族後見として主に子どもが後見人になり、残りの約2割が専門家後見または第三者後見として、親族以外の者がなる。さらにそのうち後見人候補者の指定のないケースが、弁護士、司法書士、社会福祉士、精神保健福祉士(行政書士は入っていない)のいずれかに回ってくる。この振り分けは家庭裁判所の職員によって行われるが、恣意的で、透明性も確保されていない。そして、その際、被後見人の財産が潤沢な案件は弁護士のところに行き、その次にいい案件が司法書士のところに行き、社会福祉士や精神保健福祉士のところには、財産状況の極めて貧しい案件しか回ってこないというのが実情である。これは、何を意味するかと言えば、被後見人の財産状況は後見人の報酬額に反映されるのである。そして、弁護士の場合月額5万円、司法書士の場合月額3万円といった、相場までできあがっているというのが実態である。もちろん、こんなことは裁判所は公式には認めないが、暗黙の事実である。現に、私の知合いの精神保健福祉士など、ただ同然の案件ばかり回ってくると言っていた。法律の番人たる家庭裁判所が、憲法14条(平等条項)や、ILOの理念である「同一労働同一賃金」に反する行為を平然で行っているというのは、由々しき問題ではなかろうか。
 司法書士はどちらかというと恩恵にあずかっている方なので、著者のようにこの問題を真正面から提起すると言うのは、異例かつ勇気のいることであろう。また、社会福祉士や精神保健福祉士の場合、事務所を構えている場合も少なく、またお金に無頓着な人が多いので、あまり問題視にされないのかもしれない。ちなみにわが行政書士は、上記4つの士業にも含まれておらず、その仲間に入れてもらうため家庭裁判所に日参しているという情けない状況なので、問題告発などとても考えられない。
 
 ところで、ここまで読んで、興味をもって頂いた方には誠に申し訳ないのだが、実は本書はまだ刊行されていない。つまり、まだ原稿段階のものを読んだのである。出版社勤務の頃ならともかく、なぜ一介の行政書士がこのような原稿を入手しえたかと言えば、大学時代の障害者問題系サークルの仲間であるH氏が紹介してくれたからである(ちなみにH氏は、当時ラグビー部にも所属し、学生時代にいわば二種類の運動に関わったつわものであるが、卒業後新聞記者として活躍した)。
 私は、本書が刊行され、多くの人に読まれることを切に望んでいる。成年後見制度がスタートして早10年が過ぎたが、この制度の利用者数が伸び悩んでおり、いまだ啓蒙・普及の段階にあるといった認識のせいか、マスコミもこの制度のもつ矛盾や問題点について言及することを避けているように思われる。しかし、10年間も実践を積み上げてくれば、そろそろあらが見えてきてもおかしくはなく、そして、それらが改善されることなくして普及もありえない。本書が刊行されれば、それに向けて一石を投じることになるだろうと信じてやまない。



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